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札幌高等裁判所 昭和59年(う)130号 判決 1985年1月24日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人山口均提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原判決挙示の司法巡査作成の速度測定カード(追尾式)は、警察用自動車が、緊急自動車の要件である赤色の警光燈の点燈を怠ったまま法定の最高速度を超えて走行して被告人車を検挙した際に、作成されたものであって、違法収集証拠として証拠能力を欠くのに、原判決がこれを唯一の客観的な資料として被告人の速度違反の事実を認定したものであるから、原判決には事実の誤認がある、というのである。

そこで、検討すると、原判決挙示の各証拠及び当審証人目黒武の供述を総合すると、次の諸事実を認めることができる。

北海道警察本部交通機動隊苫小牧分駐所所属の司法巡査舟根誠及び司法警察員目黒武の両名は、原判示の日時、場所において、警察用自動車(パトカー)に乗務して交通の取締りに従事中、法定の最高速度を超過する速度で走行している疑いのある被告人運転の普通乗用自動車を発見したので、これを追跡し追い上げ、被告人車の後方約三〇メートルまで接近した後、速度測定開始の態勢に入り、右間隔を保持しつつ約二〇〇メートルにわたって追従走行し、その間、両警察官ともに自車のボンネットと被告人車のバンパーを注視し、双方の車両の等速が保たれたことを確認し合ったうえ、自車の測度計のストップボタンを押して、その指針を固定させたこと、この結果、右速度計の指針が八八キロメートル毎時を示していたので、前照燈のパッシングによる合図をして被告人車を停止させ、かつ自車も停止し、被告人に右速度計の指針を確認させたうえ、「速度測定カード(追尾式)」用紙に右違反速度その他の所定事項を記載し、確認者欄に被告人の署名及び指印をさせて、これを作成したこと、及び右パトカーが被告人車を発見してこれを追跡、追上げていた際、赤色の警光燈をつけず、速度測定を開始した後にはじめてこれをつけたことを認めることができる。被告人の検察官に対する供述及び原審並びに当審公判における供述中、右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

したがって、右警察官の運転する警察用自動車は、右追い上げの際、警光燈をつけていなかったものであるから、道路交通法施行令一四条但書の規定に照らし、緊急自動車としての要件を欠いた状態で法定の最高速度を超えて走行していたものであるが、しかし右車両は、一見してパトカーとわかる警察用自動車であるから、一般車両に比べて、その高速度運転によって交通の安全がそこなわれる度合は少なく、また、被告人に対する関係でも、このような行為によって速度違反が摘発されやすくなることに伴う制約以外に、何らの具体的な不利益をもたらすものではないことにかんがみると、その際作成された速度測定カードの証拠能力を否定せしめるほどの重大な違法行為であるとはとうていいえない。したがって、右「速度測定カード(追尾式)」の証拠能力を肯定して、原判示の速度違反を認定した原判決に、所論指摘のような事実誤認その他のかしがあるとはいえない。

次に、所論は、警察官らの速度測定の方法に疑問があるというが、《証拠省略》を合わせると、前記のパトカーに舟根が運転員、目黒が通話員として乗車し、被告人車を追い上げた後、同車と約三〇メートルの距離を保ちながら追尾したことは前述のとおりであるが、速度の測定にあたっては、運転員及び通話員はともに座席の背もたれに寄りかかって、姿勢を一定にするとともに、自車のボンネットと被告人車のバンパーを同時に注視して、双方の車両が等速を保つ状態になったことを確認したうえで、速度測定したことが認められるから、その測定結果は正確なものであったと認められる(もっとも、原判決は、警察官の右測定方法を説明するにあたり、「運転員と通話員が……目の高さを一定に保ち、パトカーのボンネット前部先端と被追尾車の後部バンパーを目線で一直線に結ばれた状態になったとき……約二〇〇メートルの間右状態を維持して追尾測定」した旨判示しているが、このような方法によっては双方の車両について約三〇メートルの車間距離をとることは不可能であり、右判示部分は前記の各証言の内容を誤解したものであって、正当とはいえない。)。その他、関係各証拠によって認められるとおり、両警察官とも平素追尾式測定方法について訓練を受け、これまで四年余にわたって本件のような速度測定業務に従事していること、本件測定現場は片側二車線の平たんな直線道路であり、被告人車に対する速度測定方法は普段のそれとかわるところがなかったということ、速度測定の機器は、約二か月ほど前にその精度試験がおこなわれ、マイナス誤差に調整されていたこと、検挙当時被告人も違反の事実を何ら争っていないこと等を総合すると、被告人車の速度を前記のとおり認定した原判決に判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認その他のかしがあるとはいえない。

論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用の負担について刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡部保夫 裁判官 横田安弘 平良木登規男)

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